読書百冊(5)『変身/掟の前で 他2編』カフカ著
『変身』はカフカの中でもトップクラスに有名なものであろう。主にそれ目当てで読んでみたのだが、他の作品も面白かった。カフカ初心者である私にとってカフカはあまりに一瞬の出来事だったように思われる。
それぞれの作品について述べる。
判決
主人公が友人について語りだし、なんて哀しげな友人なんだろうと思わせておいてからの、斜め上からの展開が降ってくる。主人公と父の会話がちぐはぐなままに進行し、どちらが正しいのかわからなくなってくる恐怖がたまらない。およそ数分間の場面を切り取り、言葉にしている。突然の出来事を目の当たりにした感覚でたる。カフカが一晩で書きあげたそうな。なるほどと思った。まともな状態では生み出されないだろう。
変身
冒頭は知っていたが、最後までは初めてである。会社員グレーゴルは、ある朝、虫になっていた。会社はおろか家族としても生活できない。グレーゴルの苦しみと家族の苦しみが入り交じりで描かれ読んでてしんどくなるが、カフカはこれをなかばコメディーの如く人々に紹介したらしい。その要素はわからなくはないが、出勤を強要されるシーンとか家族に迷惑をかけてるシーンとかはなんだか自分を見ているようで、この虫って今の自分なのでは?とすら思ってしまう。気持ち悪さを気持ち悪いまま書き連ねていく手法が効いていた。救いのない物語はあまり好きではないけれども、これはなんだか良かった。
アカデミーで報告する
サルに芸を教え続けたらヒトみたいになるのか、と考えたことはあるでしょ?ないですかね?
この話はサルが自発的にヒトの仕草を教わり知能を得た体験談である。サルはそれをヒトの言葉で報告しているのだ。サルから見たヒト、ヒトから見たサル、サルとヒトとの違い、動物の定義、とか、いろいろな視点でこの物語を探ることが出来る。ヒトとヒト以外の動物の認知を比較する研究に携わっている私にとってはちょいと興味があるお話であった。カフカは暗いイメージがあるがこれは明るい方ではないだろうか。
掟の前で
短い話なので何を言ってもネタバレになってしまうのだが、己の考える掟(約束、守るべきもの?)について再考する名作である。自分は死ぬまでにこのもどかしすぎる掟とやらを突破することが出来るのか、それとも無理なのか、そもそも触れるべきでないのか、一人一人に思う部分はあるだろう。私は自分でルールを決めがちなのだが、果たしてそれでいいのか、どうすればいいのだろうか。
カフカはあまりに瞬間的だ。
なんだったんだ今のは……という衝撃だった。