まこっ鑑賞録

読みたい!見たい!と思ったものを鑑賞し、そのまんま感想述べてみるブログ

読書百冊(4) 『ひとはなぜ戦争をするのか』A・アインシュタイン S・フロイト

タイトルよりも著者に惹かれて読むこととなった。アインシュタインフロイト?そんな著名人2人が連名で文を書いたとは、どういう経緯があるんだ?どうやら1932年国際連盟アインシュタインに「いちばん意見を交換したい相手と書簡を交わしてくれ」と依頼したらしい。選んだテーマは戦争、相手はなんとフロイトだった、という訳だ。

 

物理学者の最高峰と先進気鋭の心理学者、一見交流することないこの2人に共通するテーマ、戦争。私はもちろん戦争に反対し平和を望む一市民である。しかし戦争が悪だと分かっていながら、どうして日清戦争日露戦争で日本が勝利した史実を誇らしく思えてしまうのだろう、と昔から矛盾した想いに疑問を持っていた。本著で問われているのは、戦争はなぜ発生しどうして無くならないかということである。その根底意識として、戦争の正当性についても考えなければならないだろう。戦争とは悪ではあるが正しいものではないのか?際どいところに踏み込んで考える機会を与えてくれる。

 

アインシュタインといえば相対性理論を発表し、原子力の発展に多大な貢献を残した人物であり、もはや多くの説明は要らないだろう。彼は後年原爆作製について思い悩み、平和活動を本格的に始めることになる。一流の物理学者であるから余計に責任を強く感じていたのだろう。科学によって人の文明が壊されていく様を嘆き、人が戦争しないためにはどうしていけば良いか、ということを心理の面から解き明かして欲しいとフロイトに頼んだようである。

 

フロイトもあのアインシュタインからとなると流石に困惑したようで、とりあえず己の知識と慎重な予測を基にした応答の手紙を出した。フロイトはエロスやタナトゥスといった用語を用いて、戦争に向かう心理はこのようなものだ、という説明をしている。我々の持つ破壊衝動的側面や、権力と暴力といった社会学的知見が、フロイトによって詳しく述べられている。

 

読んでみた文面から察するに、両者とも自身の持ちうる知識をどう利用していけば良いか葛藤を抱えていたに違いない。そんな両者が交差し合うこの往復書簡は人類にとっても重要な地点である。幾度か読み直して己の正義に問いかけてみたいと思う。

 

戦争は、そのスタイルは変わりながらも、現代において未だ残る人類の課題である。中東地域のニュースは絶えることなく日々流れ込んでくる。平成が終わり、今ふたたび時代について考えるべきタイミングが来ている。本著を読んで各々考えをめぐらせてみてはどうだろうか。